昔、国府町に裕福な長者が住んでおり、そこにはたくさんの 使用人が働いていました。あるとき、この長者の家に福部町の 細川から『お種』という美しい女の人が雇い入れられました。 この長者の家では、夕方になると、仕事を済ませた大勢の使用人が 三人、四人と集まって世間話をするのが通例でした。 ところが誰かが『腹がへった。』『なにかうまいものが食いてえなあ』と言うと 決まってお種が甘い柿の実をたくさん採ってくるのでした。 はじめは誰も不思議に思わなかったのですが、たび重なると、中には 疑いだす者も。 あるとき若者が、お種のあとを追ってみました。するとお種は 多鯰ヶ池に着くなり着物を脱いで蛇体となり、池の中ほどの 小島までスル、スルッと泳ぎ、そこにあった柿の木によじ登って 柿の実を採ろうとしていました。 これを見た若者は、びっくり仰天、震えながら走って逃げ帰り そのありさまを一部始終、長者に報告したのでした。 一方、自分の素性を知られてしまったお種は、その夜限りで 長者の家には帰らず、そのまま多鯰ヶ池の主になってしまいました。 長年、長者の家に住んでいた老婆は、このことを聞いてお種を たいそう哀れみ、池のそばに荒神さんの祠(ほこら) ”現存するお種の社”を建て、祀ってやりました そして毎年村の子供たちを連れて、一斗五升の小餅を 木の葉の一枚一枚に載せて、池の中に流してやり 供養をしてあげました。 |